【ベトナム】タクシー運転手を日本へ 懸念される語学力・交通認識の違い

外国人問題

日本のタクシー業界は現在、深刻な人手不足に直面している。国土交通省の統計によると、2022年時点でタクシー運転手の数は約24万人と、過去5年間で約2割、過去10年間で約4割も減少した。

一方で、タクシーの需要は増加傾向にある。特にコロナ禍からの回復とともに、インバウンド観光客の増加や、高齢者の移動手段としての需要が高まり、2022年のタクシー利用者数は前年比12%増となった。この需給ギャップを埋めるために、多くのタクシー会社が外国人労働者の活用を模索している。

しかし、タクシー運転手という職業は単に運転するだけではない。日本の道路事情、接客スキル、安全意識の高さなど、多くの要素が求められる。安易に外国人労働者に任せてしまって良いのだろうか

ベトナムでのタクシー運転手育成計画 – 2025年夏に開始

徳島県の自動車教習所大手である広沢自動車学校(徳島市)は、ベトナム南部ドンタップ省人民委員会と連携し、日本で働くベトナム人タクシー運転手の育成を進める計画を立てている。2025年夏から研修を開始し、年間300人規模での育成・送り出しを目指す。

この取り組みは、日本政府が2024年3月に「特定技能1号」の対象に運送業ドライバーを追加したことを受けたものである。日本のタクシー業界はこの政策を活用し、外国人労働者の受け入れを加速させていくと考えられる。広沢自動車学校は、ベトナムの教習所と連携し、安全運転技術を現地で指導。さらに、日本国内の教習所とも連携し、全国規模で外国人ドライバーを育成・派遣する方針を掲げている。

しかしながら、この取り組みにはいくつかの懸念点がある。その中でも特に重要なのが、①語学力の問題と②交通認識の違いである。

在留資格「特定技能」とは?

「特定技能」とは、2019年に新設された在留資格であり、特定の業種において即戦力となる外国人を受け入れるための制度である。

特定技能1号(タクシー運転手適用)

●在留期間:1年(更新可能、最長5年)

●技能水準:業界が定める試験に合格

●日本語能力:N4(基本的な日常会話レベル)以上

●家族の帯同:不可

今回、タクシー運転手が特定技能1号に加えられたことで、外国人労働者の受け入れが本格化する。しかし、タクシー運転手という職業において「N4レベルの日本語能力」で十分なのかという点が疑問視されている。

懸念点① 日本語能力 – N4でタクシー運転手は務まるのか?

日本政府の基準では、タクシー運転手の採用に必要な日本語能力は「N4以上」とされている。しかし、実際にこのレベルの語学力で業務がこなせるのか疑問が残る。

N4の日本語レベルとは?

  • 簡単な日常会話ができる
  • 短い文章が理解できる
  • ひらがな・カタカナ・簡単な漢字を読むことができる

しかし、タクシー運転手には次のような日本語スキルが求められる。

  • カーナビや地図の指示を理解する
  • お客様の要望に柔軟に対応する(「近道で行って」「渋滞を避けて」「あの店の前で降ろして」など)
  • 緊急時の対応ができる(事故や体調不良の乗客への対応など)

筆者の実感として、N4レベルではタクシー運転手としての業務遂行は極めて難しいと考えられる。例えば、コンビニのレジでタバコの番号を伝えても理解してもらえないレベルがN4だ。牛丼屋の厨房業務ならば、同国人が母国語で教えながら仕事ができるため問題ないが、タクシー運転手はそうはいかない。

実際、日本のタクシー業界では日本語能力が高く、接客スキルのあるドライバーが求められており、外国人労働者にそのレベルを期待するのは現実的ではない

懸念点② 交通認識の違い – ベトナムと日本の道路事情のギャップ

ベトナムを訪れたことがある人なら分かると思うが、同国の交通事情は日本とは大きく異なる。

  • バイクが主流であり、交通ルールが曖昧
  • 赤信号でも渡ることがある
  • 歩行者優先の意識が低い
  • 車線変更や割り込みが頻繁

これらの環境で育ったドライバーが日本の厳格な交通ルールに適応するのは容易ではない。ベトナムに40回以上渡航した経験のある日本人によれば、ベトナム人の交通認識は「運転手優先」であり、日本のような「歩行者優先」の文化とは大きな違いがあるという。

また、日本のタクシー運転手は高度な安全運転技術だけでなく、事故対応や法的責任なども理解している必要がある。

まとめ – 日本のタクシー運転手には高度なスキルが必要

タクシー運転手は単なる「運転手」ではなく、「接客業」の一面も持つ職業である。特に観光地では外国人観光客への対応も求められ、乗客の要望に柔軟に応えなければならない。道を尋ねられることも多く、日本語の理解力が低いとトラブルにつながる可能性がある

また、日本の交通ルールは非常に厳格であり、外国人ドライバーが短期間の研修で適応できるとは考えにくい。特に、歩行者優先の考え方が根付いていない地域から来た運転手が、日本の細かいルールに順応するのは容易ではない。

確かに、日本のタクシー業界は深刻な人手不足に直面しており、外国人労働者の活用は一つの解決策かもしれない。しかし、安易な受け入れではなく、言語・文化・安全面での十分な教育と適性検査を行わなければ、かえってトラブルを招く可能性がある。

タクシー運転手には「高度な技能」と「高い接客スキル」が求められる。外国人労働者を受け入れるのであれば、単なる労働力ではなく、日本のタクシー業界に貢献できる人材としての育成が必要だ。


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