富士北麓地域で外国人観光客を相手に無許可でタクシー営業(いわゆる「白タク」行為)をしていたとして、山梨県警は4月22日、中国籍の自称会社役員の男(44)を道路運送法違反(有償運送禁止)の容疑で現行犯逮捕しました。
近年、訪日外国人観光客が急増する中、大阪万博を迎えた関西圏や富士五湖地域、奈良、京都といった観光地で、こうした違法営業が目立つようになっています。地元のタクシー業者は仕事を奪われ、地域経済にも深刻な影響を及ぼしています。
白タクとは?その違法性とは?
「白タク」とは、営業許可を持たない一般人が、報酬を受け取って他人を自家用車で輸送する行為を指します。日本では道路運送法により、報酬を伴う旅客運送には国土交通省の許可が必要です。正式な許可を受けて営業するタクシーやハイヤーは「緑ナンバー」の車両を使っていますが、白タクは一般車両(白ナンバー)を使用しています。
また、保険も旅客運送に対応していないケースが多く、乗客の安全が確保されていません。こうした違法営業は、公正な市場競争を阻害し、合法的に運行している業者に深刻な打撃を与えます。

中国のSNSで運転手を募集
最近の白タク行為は、主に中国のSNSやメッセージアプリ(WeChat、RED、小紅書など)を通じて組織的に行われています。運転手の募集や予約受付、乗車案内などがアプリ内で完結してしまい、表面上は「知人の送迎」として装うことで取り締まりを回避するケースが多数見受けられます。訪日観光客がSNSで「日本で安く車をチャーターできる」と情報を共有することもあり、利用のハードルが下がっていることが、白タク拡大の一因となっています。

中国人白タクが増えた理由
白タクの拡大には複数の要因があります。
①まず、訪日観光客の急増が背景にあります。特にコロナ禍が明けた2023年以降、中国をはじめとしたアジア圏からの団体・個人旅行客が急増しており、地方の観光地では公共交通機関やタクシーの供給が需要に追いついていないという現状があります。
②次に、言語の壁が挙げられます。多くの日本のタクシー運転手は中国語に対応しておらず、言葉が通じる同胞の白タクを選ぶ観光客が多いのです。
③また、料金の安さも魅力となっています。白タクは正規の料金体系に縛られないため、観光客にとってはコストを抑えられる選択肢になります。さらに、電子決済(AlipayやWeChat Pay)に対応している点も、中国人観光客にとっては大きな利便性です。
こうした要素が複合的に作用し、中国人ドライバーによる白タク行為が急増しているのです。
日本へのデメリット
白タクの横行は、日本社会や経済に多大な悪影響を及ぼします。
①まず、合法的に営業しているタクシー業者が深刻な打撃を受けています。観光地においては特に、正規業者の車両が空車のまま待機する一方で、白タクが顧客を奪っている状況が見られます。これにより、従業員の雇用や地域経済全体への影響が懸念されます。
②また、白タクの収益は申告されず、税収としても国や地方自治体に還元されないため、日本の公共サービスへの貢献がなされません。
③さらに、電子決済の使用についても問題があります。白タクでは主に中国の電子マネーが使われており、国内の金融インフラを通じてお金が回らないことから、日本経済への波及効果が限定的です。
④加えて、違法行為であるにもかかわらず、取り締まりが難しい点も問題です。運転手は「お金は受け取っていない」「友人を乗せただけ」と主張することで罪を逃れようとします。証拠が乏しい状況では、警察も摘発に踏み切れない場合が多いのです。
⑤最後に、安全面のリスクも無視できません。保険に加入していない、あるいは不十分な車両で事故が起こった場合、被害者への補償が十分に行われないことがあります。運転手が事故後に逃走するケースも報告されており、利用者の保護が大きな課題です。
対策:重罰化と強制退去の検討
このような白タク行為を抑制するために、いくつかの対策が検討されています。
まず、法律の厳格な運用と罰則の強化が必要です。現行の道路運送法に基づく罰金だけでなく、再犯を防ぐために懲役刑の導入も視野に入れるべきです。
また、外国人が白タク行為を行った場合、その行為が在留資格の活動範囲を逸脱していれば、在留資格の取消や退去強制処分とする措置を明確に打ち出す必要があります。こうした措置が抑止力となり、不法行為の拡大を食い止める効果が期待されます。
さらに、SNSやチャットアプリでの募集行為については、警察や関係機関による監視体制の強化が求められます。技術的なモニタリングや情報提供の仕組みを整備することが重要です。
一方で、正規タクシーの利便性を高めるための環境整備も欠かせません。多言語対応の推進や、外国人観光客が利用しやすい電子決済への対応、アプリの利便性向上などが求められます。
観光地における啓発活動も効果的です。白タクの違法性やリスクについて多言語で案内するパンフレットの配布や、通報を促す体制の整備などが有効です。

まとめ
訪日観光客の増加というポジティブな流れの陰で、中国人を中心とした白タク行為が深刻な問題となりつつあります。大阪万博のような大型イベントが控える中で、この問題を放置すれば、さらなる混乱やトラブルを引き起こしかねません。
法律の厳格な運用とともに、地域社会全体で取り組むインフラ整備や啓発活動が急務となっています。