2025年5月、在留カードを偽造したとして、中国籍の2名が警視庁に再逮捕されました。報道によれば、彼らは複数の国籍にわたる偽造在留カードを製造・販売し、少なくとも7500万円以上の収益を得ていたとされています。しかし、このような重大事件でありながら、不起訴の可能性も報じられており、波紋を呼んでいます。
この記事では、事件の概要とあわせて、「在留カードとは何か」「なぜ偽造が横行するのか」「企業が気をつけるべきポイントは何か」を、外国人雇用やビザ申請を専門とする行政書士の立場から、わかりやすく解説します。
再逮捕されたのは中国籍の2人、偽造枚数は30枚以上
今回再逮捕されたのは、中国籍で無職の杜晶江(と・しょうこう)容疑者(35)と、李龍(り・りゅう)容疑者(36)の2名です。警視庁の発表によると、2人は東京都大田区の自宅で、在留カードを偽造していた疑いがもたれています。対象となったのは、中国、スリランカ、ネパールなど7か国にわたる国籍の偽造カードで、発見されたカードの数は少なくとも30枚にのぼります。
警察は、押収したパソコンや記録メディアから、戸籍謄本や住民票、外国人のパスポートコピーなど、1万件以上の個人情報データを確認しており、カード偽造だけでなく、個人情報の不正取得・悪用の疑いも視野に入れて捜査を進めています。
さらに驚くべきは、2人が偽造カードの販売で少なくとも7500万円を売り上げていたという点です。これは単なる小規模な不正ではなく、組織的な犯罪の可能性が高いことを示唆しています。
在留カードとは?外国人の身分を証明する重要書類
そもそも在留カードとは何でしょうか?
在留カードは、日本に中長期間在留する外国人に交付される、「外国人の身分証明書」です。法務省出入国在留管理庁が発行し、以下のような情報が記載されています。

- 氏名、生年月日、性別、国籍
- 在留資格の種類(例:技術・人文知識・国際業務、技能実習、留学、永住など)
- 在留期限
- 就労の可否
- 顔写真
- カード番号
このカードは、日本に中長期滞在する外国人(留学生・技能実習生・就労ビザ保持者など)全員が携帯・提示義務を負っており、賃貸契約、携帯電話の契約、銀行口座の開設、就職など、あらゆる生活場面で必要とされる極めて重要な書類です。
偽造カードはなぜ出回るのか?背景にある3つの要因
今回の事件のように、在留カードの偽造が行われる背景には、いくつかの要因があります。
1. 見た目が似ていて見分けが難しい
在留カードはプラスチック製で、見た目は運転免許証や保険証と似ています。表面には偽造防止技術が施されているものの、高度な印刷機器や画像編集ソフトを用いれば、肉眼で見分けがつかないほど精巧な偽造カードが作成できてしまうのです。
2. 在留資格の不正取得・不法就労に悪用される
偽造カードは、日本での就労を希望する不法滞在者やブローカーに利用されることがあります。たとえば、技能実習が終了し帰国義務がある外国人が、別人名義の在留カードを使って建設現場や飲食店で働き続けるというケースも見られます。
このような偽造カードを用いた不法就労は、雇用主にとっても重大なリスクとなり、**不法就労助長罪(出入国管理及び難民認定法第73条の2)**が適用されるおそれもあります。
3. ダークウェブやSNS上で流通
近年、SNSやダークウェブを通じて偽造在留カードが販売される例が増えています。中国語やベトナム語など外国語で「高品質・本物そっくり」などと宣伝され、価格も1枚あたり2万円~5万円程度で売買されているとされています。今回の事件でも、組織的なネットワークを通じて広範囲に流通させていた可能性があります。
7500万円の売上があっても不起訴?その可能性と理由
今回の事件では、偽造在留カードの販売で少なくとも7500万円を売り上げていたと報じられています。一般的に考えれば、これだけの金額と件数に関与した者が刑事処分を免れることは考えにくいように思えますが、報道の中には「不起訴の可能性もある」との情報もあります。
不起訴とは、検察官が被疑者を刑事裁判にかけないという判断を下すことです。不起訴には以下のような理由があります。
1. 証拠が不十分である
起訴するには、「合理的な疑いを超える程度の証拠」が必要です。偽造カードの製造に直接関与していた証拠(手作業の記録、防犯カメラ、目撃者など)が不足していた場合、不起訴になる可能性があります。
2. 起訴しても有罪が見込めない
たとえば、本人が「自分は知らなかった」「第三者に頼まれて置いていた」と主張し、それを覆す証拠がなければ、裁判で有罪判決を得るのが難しいと判断され、不起訴となるケースがあります。
3. 初犯かつ反省している場合
被疑者が初犯で、かつ十分に反省しており、再犯の可能性が低いと判断される場合も、不起訴処分が選ばれることがあります。
ただし、仮に不起訴となったとしても、在留カードの偽造や不正取得は重大な行政違反でもあります。そのため、**入管法上の処分(退去強制や在留資格の取消し)**が下される可能性は十分にあり、刑事処分がないからといって「無罪放免」になるわけではありません。
雇用主・不動産業者は在留カードの確認を徹底すべき
在留カードが偽造されやすいという現実がある以上、外国人を受け入れる側にも高い注意が求められます。特に、以下のような場面では慎重な確認が必要です。
1. 雇用時の本人確認
外国人を雇用する際は、在留カードの提示を受けるだけでなく、就労可能な資格であるかを確認する必要があります。入管庁のウェブサイトでは、カード番号などを入力してカードの有効性を確認できるサービスも提供されています。
2. 不動産契約や金融取引時の確認
外国人が賃貸契約をする際や、銀行口座を開設する際にも、在留カードの提示が必要となります。不動産業者や金融機関においても、コピーを取るだけでなく、真贋をチェックする意識が必要です。
3. 怪しいと感じたら専門家に相談を
不自然な点がある(例:字体が異常、光の反射が変、裏面が白いなど)場合には、速やかに専門家や行政書士、弁護士に相談してください。安易に信用すると、企業側が処罰される可能性もあります。

まとめ|在留カードの管理は外国人も日本人も「共通の責任」
在留カードは、外国人が日本で生活・就労するための最も重要な身分証明書です。これが偽造されるということは、日本の法制度や社会インフラの根幹が揺らぐことを意味します。
外国人を雇用する企業や、不動産を貸すオーナーなど、「外国人と関わる可能性のあるすべての人」にとって、在留カードの知識と確認体制は必須です。
今回の事件をきっかけに、制度の改善や偽造対策が進むことが期待される一方で、私たち一人ひとりが「在留カードの重要性」を再認識する必要があります。
✅ 外国人雇用や在留資格に関するご相談は、行政書士までお気軽にご連絡ください。
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