大阪市内の築古ビル5棟に、中国系法人が677社も登記していたことが、読売新聞と阪南大学・松村嘉久教授の共同調査で明らかになりました。
その多くは、実際に事業活動をしていない「ペーパー会社」とみられています。
松村教授は「経営・管理ビザを取得するためだけに登記した疑いがある」と指摘しています。
では、そもそも経営管理ビザとはどのような在留資格なのか。そして、2025年10月16日に行われた制度改正で何が変わったのでしょうか。
経営管理ビザとは?
経営管理ビザ(正式名称:在留資格「経営・管理」)とは、外国人が日本で会社を設立し、その経営または管理に従事するための在留資格です。
日本に投資し、実際に事業を運営する外国人経営者に与えられるビザであり、一定の要件を満たすことで許可されます。
たとえば、中国人が日本で会社を登記し、その代表取締役として経営する場合、このビザを取得することで長期滞在が可能になります。
しかし、制度の隙を突いて「事業実態のない会社」を設立し、形式的に登記するだけでビザを取得する例が後を絶ちませんでした。
以前の要件:形式的でも通ってしまった
改正前の経営管理ビザは、以下のような比較的緩い基準で許可されていました。
| 項目 | 改正前の基準 |
|---|---|
| 資本金 | 500万円以上(実際に入金されていればOK) |
| 事務所 | 独立した事務所があること(自宅兼オフィスも容認されるケースあり) |
| 従業員 | 雇用していなくても可(もしくは「2名の常勤職員」または「500万円投資」のいずれかで良かった) |
| 経験・経歴 | 経営経験や学歴要件は特になし |
| 日本語能力 | 不要。申請書類は行政書士が作成するため、本人が日本語を話せなくても申請可能 |
| 事業計画 | 書類上の整合性があれば可。実際に営業していなくても許可される例が多かった |
つまり「500万円を口座に入れて登記すれば通る」という“ザル審査”が実態でした。
このため、経営管理ビザを取得するための「形式的な会社設立」がビジネス化し、住所貸し・バーチャルオフィスを利用した大量登記が横行していたのです。

大阪で見られた異常な登記の実態
今回の調査で注目されたのは、大阪市内の築古ビルやマンションです。
たった5棟の建物に、中国系法人が677社も本店登記をしていたという事実。
1つのビルに数十社が入居することは物理的に不可能です。
多くの法人は実態のない「書類上の会社」、いわゆるペーパー会社だとみられます。
こうした登記は、主に「経営管理ビザを取得したい中国人が、登記だけ行って申請を通す」目的で行われたと見られています。
その背後には、在留資格取得を請け負うブローカーやコンサル業者の存在も指摘されています。
2025年10月16日から要件が大幅に厳格化
こうした形骸化を受け、入国在留管理庁は2025年10月16日、経営管理ビザの要件を大幅に改正しました。
改正内容は以下の通りです。
| 項目 | 改正後の主な変更点 |
|---|---|
| 資本金要件 | 500万円 → 3,000万円以上 に引き上げ |
| 常勤職員の雇用 | 日本人または永住者等を1名以上雇用することが必須に |
| 日本語能力 | 経営者本人または常勤職員のどちらかに**N2相当以上(B2レベル)**の日本語能力が必要 |
| 経営経験・学歴 | 経営・管理に関する3年以上の経験または修士以上の学位を要件化 |
| 事業計画の確認 | 専門家(中小企業診断士・公認会計士・税理士等)による事業計画の妥当性確認を義務化 |
| 事務所要件 | 自宅兼オフィスの利用を原則禁止。独立した事業所の確保が必要 |
| 経過措置 | 既存の在留者は2028年10月まで経過措置として旧基準を一部適用 |
資本金を3,000万円に引き上げたことで、「簡単に設立できる会社」を排除し、真に経営能力と資金力のある外国人に限定する狙いがあります。
また、日本語能力の追加は、「経営者として最低限の意思疎通が取れること」を重視したものです。
要件は厳しくなったが、それでも抜け道は存在する
今回の改正で「誰でも取れるビザ」ではなくなりましたが、それでも抜け道が完全に塞がれたわけではありません。
① 名義だけの日本人従業員
常勤職員を「形式的に雇う」ことで要件を満たすケースがあります。
給与を支払っているように見せかけ、実際には勤務していない“名義貸し社員”が問題視されています。
② 専門家確認の形骸化
事業計画書の確認を専門家が行うことになりましたが、現実には書類の形式確認だけで済ませる業者も存在します。
いわば「ハンコをもらうだけ」の確認です。
③ 経過措置期間の悪用
2028年10月までの経過措置期間中は旧基準が部分的に適用されるため、この間に駆け込みで申請する外国人が増える可能性があります。
入管当局もこうした抜け道を認識しており、今後は「更新審査」「税務情報」「社会保険加入状況」などを通じて、
実態のある経営かどうかを継続的にチェックしていく方針です。

今後の展望:真に日本経済に貢献する外国人経営者を選別せよ
経営管理ビザの厳格化は、「外国人排除」ではなく「本物の経営者だけを残す」ための制度改革です。
日本に投資し、雇用を生み、納税を行う外国人経営者は歓迎されるべき存在です。
しかし、実態のない会社を作り、在留資格を得るだけの“偽装経営者”が増えれば、制度そのものが信頼を失います。
大阪の築古ビルに何百社も登記されていたという異常な実態は、まさにその象徴です。
今後は、
- 資本金要件・日本語能力の厳格化
- 専門家による計画審査
- 税務・社会保険情報との連携
といった仕組みを通じて、透明性の高い制度運用が求められます。

まとめ
- 大阪の築古物件5棟に中国系法人677社が登記されていた
- 多くは経営管理ビザ取得を目的としたペーパー会社の疑い
- 改正前は資本金500万円・日本語不要など“ザル審査”だった
- 2025年10月16日から、資本金3,000万円・日本語N2・常勤職員雇用など厳格化
- それでも形式的な雇用・名義貸しなど抜け道は残る
- 今後は実態重視の審査が鍵となる
日本の入管行政には、「形式ではなく実態を見る目」が求められています。
本当に日本で事業を行う意思と能力のある外国人だけを受け入れることこそ、
公正で健全な経済社会を維持するための第一歩です。




