「お金がない、国に帰りたい」。
大分中央警察署にこう訴え出たのは、技能実習で来日したベトナム人の男性でした。警察が調べたところ、すでに在留期限を過ぎ、パスポートも期限切れ。入管難民法違反(不法残留)の疑いで現行犯逮捕されました。
男性は、実習先を辞めて以降、仕事も住まいも失い、帰国費用も工面できない状態に陥っていたといいます。
このように「お金がなくて帰れない外国人」が自ら出頭するケースは、近年確実に増えています。
■お金がなく帰れない外国人が増えている
技能実習生たちは来日前、ブローカーや仲介機関に高額な費用を支払っています。多くが数十万円〜百万円単位の借金を抱え、来日後はその返済に追われる生活を送ります。
ところが、実習先の倒産、賃金未払い、長時間労働などによって生活が成り立たなくなると、逃げざるを得なくなるのです。
逃亡後は在留資格を失い、再就職もできません。役所の支援も受けられず、最後には「国に帰りたい」と自ら警察に出向く――。
それがいま、都内各地で起きている現実です。

■日本はお金を出して助けるのか?
帰国を希望する不法滞在者に対し、日本政府は一部支援を行っています。
出国命令制度を利用すれば、強制送還を免れ、自費で帰国できる制度があります。
また、特別な事情がある場合には国費で航空券を手配することもありますが、対象は限定的です。
実際には、多くの外国人が「帰るための費用すらない」状況で放置されています。
入管の施設では「お金があればすぐ帰りたい」という声が日常的に聞かれます。
しかし、支援団体の資金にも限界があり、制度的な救済はほとんどありません。
結果として、外国人たちは「不法滞在者」というレッテルを貼られながらも、行き場を失って街をさまようことになります。
■都内で増える外国人ホームレス
筆者も都内で外国人ホームレスを目にする機会が明らかに増えたと感じます。
上野や新大久保の公園では、ベトナム語やミャンマー語で話す若者たちが夜を過ごしています。
話を聞くと、「実習先を逃げた」「携帯が止まって母国にも連絡できない」といった答えが返ってきます。
彼らの多くは犯罪を犯したわけではありません。
ただ、制度の狭間で立ち止まってしまっただけなのです。
日本社会は受け入れの段階では熱心でも、問題が起きた後の“出口”には無関心です。
このままでは、都市部での外国人ホームレスは確実に増え続けるでしょう。
■技能実習制度はいらないという現場の声
そもそも、技能実習制度とは「発展途上国への技術移転」を目的として作られた制度です。
しかし現実には、低賃金労働力として外国人を受け入れる手段になってしまっています。
実習生の多くは日本語も十分に理解できず、労働条件を選ぶこともできません。
一部の監理団体や企業は、彼らの無知につけこみ、過酷な労働を強いているのが現実です。
制度が始まって30年近く経ちますが、実際に技能を習得して母国に戻った人よりも、逃亡・不法残留・人権侵害のニュースのほうが目立ちます。
この状態で「技術移転」などと呼べるでしょうか。
今後は制度を温存するよりも、外国人が正当に働き、生活できる労働ビザ制度へ一本化すべきです。
「技能実習」という名の下に労働力を囲い込み、帰国すら困難にする仕組みは、もはや時代遅れと言わざるを得ません。
■筆者が感じたこと
行政書士として外国人と関わる中で感じるのは、「制度が複雑すぎて本人の努力では抜け出せない」現実です。
不法残留に至るまでの経緯を聞くと、本人に悪意があるケースはほとんどありません。
ほとんどは、制度と支援の狭間に取り残された人たちです。
にもかかわらず、社会の目は冷たいままです。
「違法だから自己責任」と切り捨てれば楽ですが、それでは何も変わりません。
安価な労働力として外国人を呼び込み、問題が起きれば放置する――。
そんな国に未来があるでしょうか。

■まとめ:これからの日本に必要な視点
今回のベトナム人実習生の逮捕は、個人の問題ではありません。
技能実習制度という仕組みの限界、日本の受け入れ体制の脆弱さを示す象徴的な事件です。
お金がなく帰れない外国人をどう支えるか。
それは人道的な問題であると同時に、日本社会のあり方を問うテーマです。
技能実習制度を続けるのか、それとも新しい外国人労働政策へ転換するのか。
今こそ、日本が本気で選択すべき時期に来ています。




