近年、日本に帰化を希望する中国人が増加しています。法務省が発表している統計によると、2019年(令和元年)には2,538人の中国人が帰化許可を受けました。その後も増加傾向は続き、2023年(令和5年)にはついに3,000人を超える結果となりました(※法務省「帰化許可者数の推移」より)。
この数字は、帰化者全体の中でも中国出身者が大きな割合を占めていることを意味します。日本に暮らす中国人が年々「日本人になりたい」と感じている現実があるのです。
一方で、日本国内では中国に対して警戒心を抱く人も少なくありません。政治的対立や文化の違い、報道などがその背景にあると考えられます。では、そうした風潮の中で、なぜ中国人はあえて日本国籍を取得しようとするのでしょうか。
今回は、実際に日本在住の中国人3名にインタビューを行い、帰化を希望する理由を伺いました。背景には、中国と日本、それぞれの社会に対する本音が見え隠れしています。

中国SNSに溢れかえる日本への帰化を勧める広告
1. 経済と安全保障の不安から日本に拠点を移したい(40代・男性)
最初にお話を伺ったのは、東京でIT関連のビジネスを展開している40代の中国籍男性です。来日して10年以上経過しており、現在は経営管理ビザを持って日本に滞在しています。
彼が帰化を考え始めたきっかけは、中国の経済と政治に対する将来的な不安でした。
「中国は経済的に厳しい局面に入っています。若者の失業率は高く、不動産バブルも崩壊しつつあるように見えます。また、台湾との関係や軍事的緊張が高まっていて、何が起こるか分かりません。」
中国に留まることのリスクを強く感じた彼は、日本での生活基盤をさらに安定させたいと考えるようになりました。
現在、経営管理ビザを使って会社を経営していますが、このビザには期限があり、事業が思うようにいかないと更新できない可能性もあります。そこで、帰化することで在留資格に縛られず、より自由にビジネスを展開したいと考えているそうです。
「日本は成長はしていませんが、安定しています。制度も透明で、個人が努力すればきちんと報われる。そういう点で、帰化して日本人になるメリットは大きいです。」
2. 家族が日本人だから、自分も自然に帰化したい(40代・女性)
次にお話を伺ったのは、日本人男性と結婚し、2人のお子さんを育てている40代の中国籍女性です。彼女は家族との一体感を大切にする気持ちから帰化を考えています。
「子どもたちは日本の学校に通っていて、夫も日本人です。家族の中で私だけが中国籍というのが、少し引っかかっていました。」
彼女の場合、帰化は日本社会に溶け込みたいという気持ちから来ているというよりも、「家族として自然な流れで」日本国籍を取りたいという考えに基づいています。
一方で、中国に住む両親や親戚からは反対の声もあるそうです。
「中国では『帰化=裏切り』のように思う人もいます。両親には説明が難しいですが、私は日本で生きていく覚悟を決めました。」
また、彼女は帰化したことを中国人社会の中で少し自慢に思う部分もあると話してくれました。日本国籍は一部では“ステータス”と見なされている現実もあるようです。

3. 中国に帰りたくない。安全のために日本人になりたい(30代・女性)
最後にお話を伺ったのは、香港出身の30代女性です。現在は都内の外資系企業に勤務しており、就労ビザで生活しています。
彼女の帰化希望の理由は、政治的な背景が大きく関わっています。
「2019年の香港の民主化デモ以来、中国政府の圧力が強まりました。自由にSNSも使えなくなって、親戚の中には警察に呼び出された人もいます。そうした現実を見て、私は中国に絶対に戻りたくないと思いました。」
彼女は日本の文化や社会を特別に好きというわけではありませんが、「安全に暮らしたい」という思いから日本国籍を望んでいます。
「就労ビザだと仕事を辞めたら在留資格を失うリスクがあります。結婚もしていないので、将来の不安が大きいんです。帰化できれば、ようやく安心して暮らせると思っています。」
このように、帰化は「日本に溶け込むための手段」というより、「中国に戻らないための保険」として捉えられているケースもあります。

中国人の帰化は増え続けるのか?今後の課題とは
今回インタビューした3名のケースからも分かるとおり、中国人が日本国籍を希望する理由は非常に多様です。経済的な将来不安、政治的リスク、家族構成、そして在留資格に対する不安など、複数の事情が複雑に絡み合っています。
とはいえ、帰化という制度は本来、「その国に忠誠を誓い、国民としての責任を果たす意思があるかどうか」を問う制度です。単に制度上のメリットを得るための「手段」として利用されるべきものではありません。
実際、筆者自身もこれまで数多くの帰化相談を受けてきましたが、「日本社会の一員として貢献したい」と心から語る方には、なかなか出会う機会がありませんでした。
今後、日本がますます外国人にとって魅力的な国となっていく中で、帰化制度の運用についても慎重な姿勢が求められると考えます。
参考資料
・法務省「帰化許可者数の推移」(令和5年版)
https://www.moj.go.jp/MINJI/minji07_00042.html