近年、日本を訪れる外国人観光客の数は増加の一途をたどっています。観光庁の発表によれば、2024年の訪日外国人は年間3,000万人を超え、コロナ禍以前の水準を超える勢いです。
それに伴い、日本で車を運転したいと考える外国人の数も急増しています。特に地方観光地では、電車やバスの便が少ないことから、「レンタカーで自由に移動したい」と考える旅行者が多くなっています。
その際に必要となるのが、「国際運転免許証」または「日本の運転免許」への切り替え(以下、「切り替え」)です。
ところが、この「切り替え手続き」が、思いのほか簡単で、観光ビザ(短期滞在)でも取得できてしまうことをご存じでしょうか?一見便利に思えるこの制度には、制度の盲点を突いた“闇”のような問題が存在しています。
外国人観光客の運転免許切り替えとは?
切り替え制度の概要
外国人が日本で車を運転するには、以下の3つの方法のいずれかが必要です。
- ジュネーブ条約加盟国の国際運転免許証を持参
- 台湾、スイス、ドイツ、フランスなど一部の国の自国免許と日本語翻訳を併用
- 外国の運転免許証を日本の運転免許に切り替える
この中で、もっとも問題となっているのが3番目の「切り替え」です。
切り替えの流れ(普通免許の場合)
外国人が運転免許を日本で切り替えるには、以下のような手続きが必要です。
- 有効な外国の運転免許証を提示
- 免許取得後、3か月以上その国に滞在していた証明(出入国履歴など)
- 日本国内の居住地を示す書類(住民票または住所証明)
- 適性検査(視力検査等)
- 国によっては技能試験・学科試験(免除される場合もあり)
一見すると厳格な制度のように見えますが、実は観光ビザ(短期滞在)中でも、形式上これらを満たせば取得可能となっています。

ホテル住所で「住民登録」??
最大の問題点は、「日本の住所」が形式的でよいという点です。
本来、日本の運転免許制度は、生活の拠点が日本にある人を対象に設計されています。免許切り替えの条件にも、日本での住民登録を通じた住所証明が求められるのが原則です。
ところが現実には、「外国人向けの免許切り替えサポート業者」が登場し、ホテルやウィークリーマンションの住所で住民登録をさせるよう指南する事例が相次いでいます。実際には数日しか滞在していないにもかかわらず、形式的に住所を作り出し、切り替え申請に必要な条件を満たしてしまうのです。
これにより、本来運転する能力が不十分な人でも、比較的容易に日本の運転免許を取得できてしまう状況が生まれています。

この制度が生む「危険」と「闇」
1. 運転技術の未熟さ
切り替えを希望する外国人の中には、実際にはほとんど運転経験がない「ペーパードライバー」もいます。また、母国での免許取得制度が緩いため、運転技術が十分でないケースも少なくありません。
特に、技能試験が免除されている国の出身者の場合、実技の審査を経ずに日本の免許証が交付されてしまいます。これは道路上のリスクを高める要因となっています。
2. 公共の安全へのリスク
こうした背景から、日本各地で外国人による交通事故が報告されています。特にレンタカーによる事故の内容としては、道を間違えて逆走、左側通行に慣れず衝突、スマートフォンのナビを見ながら運転し追突するといったケースが目立ちます。
一部の自治体では、事故の多発やマナーの悪化を受けて、外国人へのレンタカー提供そのものを見直す動きも出始めています。
3. 不正業者の暗躍
さらに深刻なのが、書類作成や虚偽申請を代行する「ブローカー」の存在です。
彼らは、偽造の滞在証明、日本語翻訳書類の不正作成、技能試験の代理受験などを請け負うと宣伝し、SNSや外国語掲示板で顧客を募っています。
これらの行為は、明らかに公文書偽造・虚偽申告に該当し、刑事罰の対象となります。また、依頼した外国人本人も処罰を受ける可能性があることを理解していないケースも多く、法的啓発が急務です。
対策:制度の見直しと監視強化を
こうした問題を防ぐために、制度上・運用上の見直しが求められています。
まず、「短期滞在者による切り替え」は制度上明確に制限すべきです。滞在目的が「観光」であるにもかかわらず、日本国内の居住を前提とした制度を利用することは制度の趣旨に反します。
また、住民登録に関しても、「生活の本拠」が本当にあるのかを確認する必要があります。光熱費の請求書や賃貸契約書など、実際の居住実態を示す書類の提出を義務付けることで、形式的な登録を排除することができます。
さらに、不正な手続きを助長する業者やブローカーへの対策も急務です。ネット上での違法行為の監視体制を強化し、摘発を進めると同時に、外国人向けの正しい情報提供と制度理解のための啓発活動も強化する必要があります。

まとめ:便利さの裏にある「闇」に光を
外国人観光客にとって、日本で車を運転することは、旅行体験を豊かにする重要な手段です。特に公共交通が整っていない地域では、レンタカーの利用は利便性の面で非常に魅力的です。
しかし、利便性の名のもとに、制度の穴を突いた不正や、本来適格でない運転者の免許取得を許してしまえば、交通安全に対するリスクは飛躍的に高まります。
安全な社会を維持するためには、切り替え制度の再設計と、現場での厳格な審査、そして何より正しい制度運用が求められます。
制度の「便利さ」の裏に隠された闇に、私たちはしっかりと光を当てる必要があるのです。
【参考資料】
・警察庁「外国免許からの切り替えに関するガイドライン」
・観光庁「訪日外国人旅行者数の推移(2024年度)」
・地方自治体による交通事故報告書(2023年度)




