2025年5月22日、大阪公立大学の櫻木弘之学長は中国駐大阪総領事・薛剣氏と会談し、昨年の上海訪問を踏まえて「中国の大学との実質的交流を一層強化する」と語った。会談後には中国出身教職員・留学生との懇談会も開催され、両者は大学公式SNSや総領事のX(旧Twitter)アカウントで友好の様子を発信した。
この出来事は、日本の高等教育が中国との提携を加速させる潮流の“氷山の一角”にすぎない。本稿では大学から小中学校までの動向を整理し、少子化という現実のなかで進む「中国化」が日本の教育・社会にもたらす影響を考察する。
大学レベルで広がる提携――数字が物語る“親中依存”
文部科学省が2024年に公表した調査によれば、令和4年度の大学間交流協定は中国が9,020件で断トツ首位、全体の18%を占める。2位の米国(5,157件)を大きく引き離す状況だ。(mext.go.jp)
- SGU事業の成果指標――政府は「スーパーグローバル大学」などの補助金事業で、外国大学との協定数や留学生数をKPIに設定してきた。その結果、資金難の大学ほど中国との提携を急ぐ構図が生まれた。
- 研究費と国際共著――理工系を中心に、中国資本の共同研究プロジェクトが増加。論文数や大学ランキングで“国際共著”が評価されるため、教員側にもインセンティブが働く。

小中高校にも及ぶ中国語ブーム
公立校でも国際理解教育の名の下、中国語を朝のあいさつに取り入れる例がある。横浜市立阿久和小学校は2022年度、中国語「早上好」を児童が輪番で唱和した。(edu.city.yokohama.lg.jp)
こうした活動は多文化共生を目的とするものだが、ネット上では「中国語だけが突出して扱われている」との批判も少なくない。
なぜ日本の学校は中国と友好を結びたがるのか
背景 | 具体的要因 |
---|---|
政策誘導 | 国際化補助金やSGU事業で“協定数”がKPI化。 |
資金難 | 私学助成の伸び悩み、科研費獲得競争の激化。共同研究費で穴埋め。 |
学生募集 | 18歳人口は2005年137万人→2025年110万人へ減少。定員割れ私大が6割。中国人留学生は12万人超で最大市場。(mext.go.jp) |
ランキング指標 | QS・THEで「国際化」「論文共著」が高評価。 |

留学生依存のリスク
- 財政の脆弱化:コロナ禍でビザ停止が起きた2020年前後、留学生比率40%超の私大は授業料収入が一時的に30%以上減少した事例もあった。
- 学術安全保障:デュアルユース技術の流出懸念。米豪では既に防衛関連技術の対中共同研究を制限する法律が発効、日本でも経済安保法に照らし審査が強化されつつある。
- キャンパス多様性の歪み:特定国籍比率が極端に高まると学内言語が偏る。授業設計が中国語話者前提になれば、他国留学生や日本人学生の学習効率が低下しかねない。
「日本の生徒だけで運営できない学校は必要ない」の真偽
確かに、定員割れの学部を留学生で埋め合わせるだけの“箱物大学”は社会的費用対効果が小さい。しかし一律に切り捨てれば、地方の雇用や地域知の拠点が消滅する。以下の三つの方向性で“必要な大学”へ転換することが現実的だ。
- 専門職大学化・統合再編――地域産業と直結する実学系に特化し、小規模大学は連合体を組む。
- 受入国の多極化――中国一極からASEAN・南アジア・欧州などへ留学生ソースを分散。英語・多言語コースの拡充で依存度を下げる。
- 経営ガバナンス強化――学長裁量で協定をレビューできる「学術安全保障審査委員会」を学内に常設。共同研究の透明化と再評価を行う。
提携は“量”から“質”へ――日本の未来を守る処方箋
- KPIの見直し:協定「件数」ではなく、アウトカム(研究成果の社会還元、共同特許、地域貢献度など)を評価指標に採用せよ。
- 多文化同席型カリキュラム:中国語に偏り過ぎない形で、複数言語・文化を横断するプロジェクト型学習を普遍化する。
- 奨学金の再設計:留学生枠の過度な学費減免を是正し、日本人学生と同等の競争条件に揃える。財政健全化と公平性を両立。
まとめ
少子化にあえぐ日本の学校が中国との提携を深めるのは、経営上の“必要悪”に近い側面を持つ。しかし、量的拡大を優先した結果、学術安全保障や文化的多様性が損なわれるリスクが現実味を帯びている。
出口戦略は「多極化」と「質重視」――中国との協定をゼロにするのではなく、比率を下げバランスを取る。真に国際的なキャンパスとは、一国依存でなく複数文化が共生する場である。日本の教育界はその原点に立ち返り、次世代に持続可能な学びの環境を残さねばならない。