入管収容をめぐる訴訟の渦中にいたクルド人男性、覚醒剤所持で現行犯逮捕

外国人問題

難民申請と仮放免の制度が抱える現実とは?

2025年6月、東京・新宿の路上で覚醒剤を所持していたとして、難民認定申請中かつ仮放免中のクルド人の男が警視庁に現行犯逮捕されていたことが明らかになりました。この男は、入管収容をめぐって複数の国家賠償請求訴訟を行っていた人物として、一部の支援団体などの間では広く知られていた存在です。

この報道により、改めて日本の「難民認定制度」「仮放免制度」「入管行政の透明性」そして「支援団体の在り方」に注目が集まっています。本記事では、この事件の背景にある制度的問題や、今後の入管行政への影響について、制度の仕組みも含めてわかりやすく解説していきます。

1. 事件の概要:誰が、どこで、なぜ逮捕されたのか

2025年6月11日、複数の報道によれば、警視庁新宿署は東京都新宿区の路上において覚醒剤を所持していたとして、トルコ国籍のクルド人の男を覚醒剤取締法違反(所持)容疑で現行犯逮捕しました。男は日本に難民認定を申請中であり、入管施設からの仮放免中という立場でした。

この男は、過去に入管施設での長期収容が国際人権規約に違反するとして国家賠償請求訴訟を起こしており、令和6年6月17日に東京地裁で判決が予定されています。

また、別件では収容中に暴行を受けたと主張し、2023年に国を訴えた訴訟では、東京地裁が国に22万円の支払いを命じる判決を下しています。

しかし今回の覚醒剤事件により、その信頼性や訴訟の正当性に対する疑念が広がっています。

2. 難民申請と仮放免制度の仕組み

まず、今回の事件を正しく理解するためには、「難民認定申請中」と「仮放免中」という言葉の意味を把握しておく必要があります。

難民認定申請とは

日本における難民認定申請は、1951年の難民条約および1967年の難民議定書に基づいて行われます。迫害の恐れがある外国人が入国または滞在を希望する場合、「難民」としての地位を日本政府に認定してもらう手続きです。

日本の難民認定率は、他国に比べて極めて低く、たとえば2022年には申請者数3,772人のうち認定されたのは202人(認定率約5.4%)に過ぎません(出典:法務省「出入国在留管理庁統計」)。

仮放免制度とは

仮放免とは、本来は退去強制令書が発付され収容されるべき外国人が、一定の理由(健康状態、子どもへの配慮、難民申請中など)により、一時的に施設外での生活を認められる制度です。仮放免中の外国人には、以下のような制約があります。

  • 就労不可
  • 指定された住居地からの変更制限
  • 定期的な出頭義務
  • 旅行や引っ越しの制限

つまり「在留資格」はなく、法的には不法滞在者と同じ状態でありながら、人道的配慮のもとで一時的に自由を与えられている状態です。

デニズ氏のSNSより

4. 仮放免を繰り返しながらの滞在を許す制度的欠陥

今回の事件で最も深刻な問題は、「仮放免」を繰り返すことで、事実上の長期滞在が可能になってしまっている日本の制度そのものにあります。

本来、仮放免はあくまで一時的な措置であり、退去強制手続の完了までの「つなぎ」でしかありません。にもかかわらず、難民申請や訴訟の繰り返しを通じて仮放免を更新し続けることで、何年にもわたって合法的な在留資格のない外国人が日本にとどまることができてしまうという現状があるのです。

難民申請による収容停止

現在の制度では、難民認定の申請が行われると、その間、原則として退去強制手続きが停止されます。これを悪用し、何度も繰り返し申請を行うことで仮放免を延長し、結果的に「収容回避」と「長期滞在」が可能になるという抜け穴が生まれています。

実際、今回逮捕されたクルド人の男性も、過去に複数回の難民申請や訴訟を通じて仮放免を取得し、そのたびに滞在を延長してきた経緯があります。

行政手続に詳しくない国民から見れば、「なぜ違法状態の外国人がいつまでも日本にいられるのか」という疑問を抱かざるを得ません。

「合法」と「人道的措置」のすき間

仮放免中の外国人は法的には在留資格がない状態でありながらも、強制送還や再収容が行われず、外部で自由に生活することが可能です。こうした状態は、「法的には不法滞在者だが、実質的には自由に行動できる」という制度の矛盾を示しています。

さらに、就労が禁じられているにもかかわらず、生活のためにアルバイトをする者も多く、その実態が十分に把握されていないケースもあります。今回のように犯罪に関与する事例が出てくることは、制度が持つリスクを如実に示していると言えるでしょう。

支援団体による「制度の温床化」

また、仮放免の申請や延長に関与する支援団体の一部が、「人権」の名のもとに、仮放免の乱用を助長しているという指摘もあります。仮放免中の外国人の訴訟を支援し、難民申請を繰り返すよう助言することで、事実上の「滞在延命」を支援するケースも報告されています。

支援そのものを否定するものではありませんが、制度の目的から逸脱した行為が常態化してしまえば、本当に保護されるべき人が不利益を受けることにもつながりかねません。

まとめ:難民申請制度の変革を本気で考えるとき

今回の事件は、覚醒剤所持という重大な刑事事件であると同時に、日本の難民認定制度や仮放免制度の脆弱性を浮き彫りにする象徴的な出来事でもあります。

本来、日本の難民制度は迫害や命の危険から逃れてきた真に保護されるべき人々を守るための仕組みです。しかし現実には、制度の抜け穴を利用し、何度も申請や訴訟を繰り返すことで、実質的に長期滞在を可能にしてしまうケースが後を絶ちません。それは制度の「人道性」を逆手に取った行為であり、日本社会の法秩序と治安に対する重大な挑戦でもあります。

特に仮放免制度においては、在留資格のない外国人が何年にもわたり合法的に働けず、それでも生活せざるを得ないという矛盾した状況を生み出しています。そして時に、その歪みが犯罪行為や社会的対立という形で噴き出すことになります。

日本は今、難民認定制度の根本的な見直しに着手すべき時期に来ています。
たとえば:

●難民申請の回数制限と審査期間の厳格化

●仮放免制度の対象者と期間の明確化

●就労の可否に関する明確なルールと監視体制の強化

●支援団体との関係性や活動の透明化

こうした制度改革を行うことで、真に保護されるべき人々を見極め、不当な滞在や制度悪用を防止することが可能になります。支援と規律のバランスが取れた制度こそが、健全な外国人政策と社会の安定に直結します。

日本社会は、現実から目を背けることなく、今こそ**制度の「善意の悪用」**という問題に正面から向き合い、本質的な改革に取り組むべきです。