育成就労制度の落とし穴――日本語力不問で受け入れ拡大する日本社会の不安

外国人問題

育成就労制度は、技能実習制度に代わる新しい外国人受け入れ制度として注目を集めています。政府は、技能実習で生じてきた各種問題を改善し、より透明で健全な仕組みにすることを掲げています。確かに制度の表向きだけを見れば、一定の見直しが行われていることは事実です。

しかし、その一方で、制度の根幹には依然として大きな課題と不安が横たわっています。本稿では、特に「日本語能力要件の緩和」と「日本社会の受け入れ能力不足」という視点から、育成就労制度の実情と今後の懸念について考えていきます。


Q&A

Q
育成就労制度で代表的な職種はどのような分野ですか?
A

育成就労制度の対象となる職種は、これまで技能実習制度で多く受け入れられてきた分野が中心になります。具体的には、建設介護農業食品加工製造など、人手不足が深刻な業界が主な受け入れ先となる予定です。将来的には、さらに分野が拡大する可能性も指摘されています。

Q
来日前に日本語能力試験(N5)を取らなくても本当に大丈夫ですか?
A

制度上は、入国後に日本語講習を受ければ問題ないとされています。しかし実際の現場では、来日前に全く日本語ができない状態だと、生活や仕事で大きな不便が生じます。企業側の負担も増えるため、「大丈夫かどうか」で言えば慎重に考える必要があります。

Q
育成就労制度では途中で転籍できますか?
A

はい、就労開始から1〜2年を目安に、一定の条件を満たせば転籍が認められる方向で議論が進んでいます。ただし、どのような業界でどれほど自由に転籍できるかは、今後の制度設計や運用の具体化によって変わる可能性があります。

Q
育成就労制度は技能実習制度よりも外国人にとってメリットがありますか?
A

メリットもありますが、課題も多い制度です。転籍の可能性が広がる点や、建前の曖昧さが減った点は改善といえます。しかし、日本語要件の緩和により、生活面や現場での負担が増え、結果的に当事者が困るケースも予測されています。制度の良し悪しは、今後の運用次第です。

Q
日本語がほとんどできない状態でも、育成就労制度で問題なく生活できますか?
A

日常生活は日本語が必要な場面が多く、行政手続きや医療機関などでも日本語が理解できないと困る場面が増えます。また、地域トラブルや仕事の安全面にも影響があるため、日本語ができない状態での生活は簡単とは言えません。受け入れる側のサポート体制が十分でない現状では、慎重な判断が求められます。

■ 育成就労制度はどこが改善されたのか

育成就労制度は、日本語能力試験N5レベル(日本語初心者レベル)の取得、またはそれに相当する日本語講習の受講を条件にしています。また、就労開始後1〜2年を目安に転籍を認める制度も検討されており、技能実習制度で頻繁に批判されてきた「転職の自由がない問題」にある程度対応しようという姿勢が見られます。

これだけを聞くと、「技能実習制度よりは良くなる」という印象を持たれるかもしれません。

しかし、制度をよく知る現場関係者の間では、以前から次のような厳しい指摘が続いてきました。

「技能実習制度は“開発途上国の人づくり”を建前にしていましたが、実際には日本人が集まらない業界の延命措置として機能していた。問題点が隠しきれなくなったため、育成就労に名称変更し、“人手不足の分野で人材確保を行う”と正直に言い始めただけではないか」

制度名が変わったからといって、根本の仕組みや受け入れる側の環境が劇的に変わるわけではありません。むしろ、改善の看板の裏側で、より大きな負担が日本社会にのしかかってくる可能性があります。


■ 来日前の日本語条件を緩和する「逆行」

育成就労制度の大きな変更点に、「来日前にN5がなくても、入国後の講習でOK」という方針があります。

これは一見、外国人にとって優しい制度のように見えます。しかし実際には、重大な問題を引き起こす可能性を持っています。

N5を取得しないまま来日できるということは、

「そもそも日本語を学ぶ意思がない人でも日本に入れる」

という意味です。

技能実習制度では形式的にせよN4〜N5の基準を設けていたため、少なくとも「日本語を学ぶ姿勢のある人たち」が入国していました。しかし基準を緩和すれば、全く日本語が理解できない層が大量に来日する可能性が高まります。


■ 日本社会は「日本語ゼロ」の人材を支えられない

現状、日本社会は外国人に対して十分な受け入れ体制を整えているとは言えません。

日本語が理解できない人が増えれば、以下のようなトラブルが必ず増加します。

● 職場での問題

・安全指示が理解できない
・危険作業を避けられない
・書類が読めないため手続きができない
・現場の先輩が教育に追われる

特に建設・製造など危険を伴う現場では、言語の問題が事故につながるケースも少なくありません。

● 生活の中での問題

・ゴミ分別が理解できない
・騒音や生活マナーの違いで近隣トラブルが発生
・行政からの通知が読めない
・交通ルールが理解できず違反や事故が増える

市役所・病院・学校など、あらゆる公共窓口での負担が急増することも避けられません。


■ すでに現場は限界に近づいている

技能実習生を多く受け入れてきた現場では、これまでも次のような課題が繰り返し起きてきました。

・通訳が足りず、社内研修が成立しない
・寮生活のルールが守られずトラブルが多発
・失踪による行方不明問題
・日本語ができないため転職先が見つからず不満が蓄積
・地域住民からの苦情が増加

これらの問題に十分対応できていない状況で、さらに日本語ゼロの人材が増えることは、制度の負担を一気に増大させることにつながります。


■ 受け入れ拡大は「人手不足解消」の名のもとで進む

政府は表向きには「適切な育成を通じて技能向上を図る」と説明しますが、実際には労働力としての期待が強く、
“人手不足を補うための制度”
という側面がより明確になっています。

しかし、そのツケを払うのは、
企業、自治体、そして地域で生活する日本人です。

日本語教育にかける時間と費用は企業側にのしかかり、生活面のサポートは地域住民や自治体に負担が集中します。制度の枠だけを綺麗につくり変えても、現場の負荷は軽減されるどころか、むしろ増えていく可能性があります。


■ 今後の不安と日本社会が抱える課題

日本語力の乏しい外国人が急増すれば、労働現場だけでなく、学校・地域・医療・行政あらゆる場面で摩擦が生じます。

その一方で、外国人が悪いのではなく、「受け入れ体制を整えずに制度だけ拡大する日本側の問題」でもあります。

本来、日本語教育の充実、生活支援の仕組み、企業側の実習管理の強化など、社会基盤を整えてから制度を拡大するべきです。しかし実際には、制度改正のスピードに対し、現場の改善が追いついていません。

結果として今後、
・労働災害の増加
・地域トラブルの多発
・行政負担の膨張
・外国人本人の不満と失踪
といった問題がさらに深刻化することが予想されます。


■ まとめに代えて

育成就労制度は一見すると技能実習制度の改善版のように見えます。しかし、日本語要件の緩和によって、外国人本人も受け入れる日本社会も、これまで以上に混乱を抱える可能性があります。

制度の名称を変えることよりも、
「日本語教育」「生活指導」「地域との調整」「現場の安全教育」
こうした“土台づくり”こそが最優先であるべきです。

今後の運用次第では、育成就労制度が日本社会の大きな負担となる危険性も否定できません。受け入れ態勢が不十分なまま制度を拡大することが、本当に日本の未来にとって良いのか――慎重な議論が求められています。