日本に暮らす外国人の間で「ボドイ」と呼ばれる存在がいることをご存じでしょうか。
ベトナム語で「兵士」を意味するこの言葉は、技能実習制度から逃げ出し、不法滞在者となった若者たちが自らをそう呼ぶ隠語です。彼らは“生き抜く兵士”として互いに連帯し、SNSを通じて仕事や居場所を共有しながら日本社会の影に潜んで暮らしています。
問題は、彼らが単なる個人の選択として制度から逃げ出しているのではなく、技能実習制度そのものが「ボドイ」を生み出す構造になっているという点です。失踪、不法就労、さらには犯罪に巻き込まれる外国人が後を絶たない現実は、制度の限界を如実に示しています。この記事では、ボドイの実態と技能実習制度の問題点を明らかにし、なぜ廃止が必要なのかを考えていきます。
「ボドイ」とは何か
「ボドイ」という言葉は、ベトナム語で兵士を意味します。日本で技能実習生として来日した若者が、制度から逃げ出し、滞在資格を失った後に自らをそう呼ぶようになりました。兵士のように日々戦いながら生き抜く自分たちを重ね合わせているのです。
ボドイは全国各地に存在し、特に建設現場や農業、製造業などで不法就労するケースが多いとされています。
彼らは日本社会の正規ルートから外れた存在でありながら、一定のネットワークを形成し、SNSを通じて仕事や住居を紹介し合っています。その一部は犯罪組織と結びつき、窃盗や詐欺に加担する例も確認されています。
失踪する技能実習生の実態
法務省の統計によると、2023年に失踪した技能実習生は全国で約9,800人、そのうち5,500人以上がベトナム人でした。つまり、失踪者の過半数をベトナム出身者が占めているのです。これは偶然ではなく、制度の歪みとベトナムからの送り出し事情が重なった結果といえます。
失踪した実習生の一部は、より高い賃金を求めて都市部で不法就労をします。しかし、在留資格を失っているため社会的に弱い立場に置かれ、ブローカーや犯罪組織に搾取されやすい状況にあります。この現実が「ボドイ」の拡大につながっています。


なぜ失踪は止まらないのか
失踪者が後を絶たない背景には、以下のような深刻な要因があります。
高額な借金
ベトナムから来日する実習生の多くは、現地の仲介業者に100万円以上の費用を支払っています。農村部の若者にとっては途方もない金額であり、借金を背負って来日するケースがほとんどです。返済のためには働き続けるしかなく、低賃金に耐えられず逃げ出す人も少なくありません。
労働搾取と低賃金
技能実習制度は本来「技能移転」「国際貢献」を目的として導入されました。しかし現実には、単純労働を低賃金で担わせる仕組みとなっています。実習生は「学びに来た」建前でありながら、実際は人手不足の穴埋めに利用されているのです。
職場移動の自由がない
実習生は原則として受け入れ先の企業を変更することができません。ブラック企業に配属された場合でも逃げ場がなく、唯一の選択肢が「失踪」となってしまいます。制度自体が逃亡を助長しているのです。
日本社会との断絶
言葉や文化の壁も大きな要因です。日本語を学ぶ機会が少なく、地域社会に溶け込むことができません。同じ国籍の仲間と閉じたコミュニティで暮らすことになり、孤立感と絶望感から逃亡に走る人もいます。
技能実習制度が日本社会に与える影響
技能実習制度は「人手不足を補う」という名目で維持されています。しかし、その副作用は日本社会に深刻な影響を与えています。
治安悪化の温床
失踪者が不法滞在者となり、犯罪に巻き込まれる事例が増えています。窃盗団の一員として摘発されるケースや、特殊詐欺の“受け子”として利用される事例も報告されています。技能実習制度が結果的に治安悪化を招いているのです。
社会コストの増大
失踪や不法滞在者の摘発、収容、送還には膨大な税金が投入されています。日本人の生活に直結する社会保障や治安維持費用が、制度維持のために圧迫されているのが現実です。
業界依存の固定化
農業や建設業など一部業界は「外国人なしでは成り立たない」と主張します。しかし、これは安価な労働力を前提とした経営体質に甘えてきた結果です。技能実習制度に依存し続ける限り、業界の健全な発展は望めません。

政府が進める「育成就労制度」では解決できない
政府は2027年度から技能実習制度を廃止し、新たに「育成就労制度」を導入する方針を示しています。職場変更の自由を一定程度認めるなどの改善策は盛り込まれていますが、本質的な問題は解決しません。
なぜなら、新制度も結局は「安い労働力」を確保するための仕組みに過ぎないからです。名前を変えても、外国人を労働者として利用する構図は変わらず、失踪や不法滞在の問題は続くでしょう。
技能実習制度は廃止しかない
技能実習制度は国際貢献でも人材育成でもなく、単なる労働力輸入制度に成り下がっています。制度の枠組みそのものが外国人を追い込み、失踪や犯罪を生む構造を作り出しているのです。
この現実を直視するならば、必要なのは「延命策」ではなく制度の完全廃止です。真に必要なのは、労働市場を正しく整備し、日本人も外国人も対等に働ける環境をつくることです。
まとめ
「ボドイ」と呼ばれる失踪実習生の存在は、日本の技能実習制度が抱える根本的な欠陥を象徴しています。借金、低賃金、自由の制限、社会的孤立――これらの要因は制度によって生み出されたものであり、制度を維持する限り失踪は止まりません。
外国人を安価な労働力として扱う仕組みは、日本社会の治安と秩序を蝕み続けています。政府が検討する「育成就労制度」も看板を掛け替えただけであり、根本解決にはなりません。
日本が真に国際社会と向き合うためには、技能実習制度を廃止し、公平で透明な外国人労働政策に転換する必要があります。ボドイの増加は、その時期がすでに来ていることを私たちに突きつけているのです。




