中国の薛剣(せつけん)駐大阪総領事が、自身のX(旧ツイッター)に投稿した発言が波紋を広げています。
きっかけは、高市早苗首相が「台湾有事は存立危機事態になりうる」と答弁した国会での発言でした。
朝日新聞デジタルがこのニュースを投稿したところ、薛総領事はそれを引用して次のように書き込みました。
「勝手に突っ込んできたその汚い首は一瞬の躊躇もなく斬ってやるしかない。覚悟ができているのか」
この投稿は短時間で削除されたものの、外交官の立場でこうした暴力的表現を公に発信したことは、国際的にも異例です。
日本国内では、「これは明確な脅迫ではないか」「外交官としての自覚が欠けている」といった批判が殺到しました。
外交官が越えてはならない一線
外交官は、国の代表として「対話」と「友好」の窓口を担う存在です。
政治的立場の違いがあっても、暴力的言葉や挑発的行動を取ることは許されません。
とくに、相手国の首相に対して「首を斬る」といった表現を用いることは、外交慣例の中では断じて越えてはならない一線です。
日本政府は事実関係の確認を急いでおり、外務省を通じて正式な抗議を行う可能性が高いとみられています。
場合によっては、外交上の最も強い措置である「ペルソナ・ノン・グラータ(好ましからぬ人物)」の指定、つまり国外退去を求めることもあり得ます。

中国政府の沈黙と二つの世論
この問題が報じられてからも、中国政府は公式な謝罪や説明をしていません。
むしろ、中国国内のSNSでは「よく言った」「強気でいい」といったコメントも見られます。
つまり、外交官の発言が暴言であっても、それを“愛国的行為”として称賛する土壌があるのです。
国際的な常識よりも、国内のナショナリズムを優先する――
これこそが、現在の中国外交の危うさを象徴しています。

それでも日本に住みたがる中国人たち
こうした緊張関係が続く中で、今なお多くの中国人が日本で暮らしたいと考えています。
外交的には敵対的な姿勢を見せながら、個人レベルでは「日本に住みたい」「子どもを日本で育てたい」という声が絶えません。
この現象には、いくつかの現実的な背景があります。
① 経済的安定と生活水準への憧れ
中国経済は長年の成長を経て成熟期に入り、失業率が上昇しています。特に若者の就職難は深刻で、2024年時点で都市部の若年失業率は20%を超えました。
一方の日本は、少子高齢化による人手不足が続き、外国人材の受け入れを拡大しています。
そのため、「日本で働けば安定した生活ができる」という意識が広がっており、介護・飲食・IT・貿易など幅広い分野で中国人が活躍しています。
本国では過酷な競争社会に疲弊した人々が、「日本は競争よりも生活の質を重んじる国」と評価して移住を希望するケースも増えています。
② 治安と社会秩序への信頼
日本は世界的にも治安の良さで知られています。
街を歩いても夜道の不安が少なく、子どもが一人で登下校できる社会は、中国人にとって衝撃的に「安心な国」です。
中国では地方都市でも犯罪が増加し、都市部では防犯カメラと監視体制が強化されている一方、個人の安全は自己責任という現実があります。
そのため、「ルールを守れば安全に暮らせる国」として日本への信頼が厚いのです。
③ 教育と子育ての環境
教育面でも、日本は高い人気を誇ります。
学力や進学率だけでなく、「自由な校風」や「いじめへの社会的対応の仕組み」などが評価されており、子どもの将来を考えて日本永住を選ぶ家庭が増えています。
また、中国の受験競争は極めて激しく、幼少期から塾漬けの生活を強いられるため、「日本ならもっとのびのびと学べる」と考える親も多いのです。
④ 医療・福祉への信頼と定住志向
中国の公的医療制度は地域格差が大きく、地方では十分な医療を受けられないケースがあります。
日本の医療は費用が比較的安定しており、保険制度の整備も進んでいるため、長期的な安心感があります。
また、永住権や帰化を希望する人も増加傾向にあります。
2023年には中国人の帰化件数が1万人を超え、過去10年間で約2倍に増えました。
背景には、「日本社会で生活基盤を築きたい」という明確な定住志向があるのです。
国家と個人のギャップ
皮肉なことに、中国政府は対外的には強硬な態度を示しながら、国民は日本社会への適応を進めています。
国家としては「対立の構図」を作り、個人は「安定した生活」を求める――
そのギャップが今の東アジアの現実を物語っています。
また、日本側にも課題があります。
一部の中国人がマナーを守らずトラブルを起こすことで、「中国人は危険だ」という偏見が生まれやすいのです。
しかし、実際には静かに働き、地域に溶け込んでいる人の方が圧倒的に多いのも事実です。
政府は毅然と外交問題に対応する一方で、在留外国人に対してはルールを明確にし、共生のための秩序を維持することが求められています。

結びに
「その汚い首は斬ってやる」――
この発言は、日中関係の緊張と不信を象徴する一言となりました。
しかし、その裏で、日本という国に生活の安心や希望を求める中国人が絶えないという事実があります。
日本を罵倒しながらも、日本に住みたがる。
その矛盾こそ、国家と個人の価値観のねじれであり、中国という巨大国家の内側にある不安の反映なのかもしれません。
日本は感情的に反発するのではなく、現実を直視し、毅然とした外交と冷静な社会運営を両立させる必要があります。
暴言一つで揺らがない成熟した国家――それが、今の日本に最も求められている姿勢ではないでしょうか。





